連載コラム「西宮市市民交流センター × 日本政策金融公庫(JFC)」

ソーシャルセクターを資金面でサポート「日本政策金融公庫(JFC)」

まず初めに・・・
NPO法人をはじめソーシャルセクターを応援する強い味方「日本政策金融公庫」は皆さんご存知ですよね。

2017年5月から翌年3月までの隔月で連載コラムを更新していきます。
コラムは、当センターのメールマガジンやホームページで読むことができます。
毎回テーマは異なり、「NPOに関する知識」や「NPOに役立つ情報」に関する情報を発信していきます。

日本政策金融公庫は、ソーシャルビジネス支援基金をはじめ、多くのNPOを資金面でサポートしている政府系金融機関です。
本コラムへのご質問やご相談は市民交流センターへご連絡ください。

第6回(最新)「ビジネスアイデアの発想」

昨年5月からお届けしてきた連載コラムも第6回、いよいよ最終回となりました。これまで、「ソーシャルビジネスとは何か」から始まり、「事業計画(ビジネスプラン)の重要性」や「熱い想いを持つことの大切さ」等を具体的な事例を交えお届けしてきました。今回は、「ビジネスアイデアの発想」についてお話します。

そもそも、ビジネスとは、何でしょうか。
ビジネスとは、「世の中の人々が求めている理想(=ニーズ)と、現実とのギャップに対して、自社のモノやサービスを提供することで、そのギャップを埋め、見返りとして対価を得ること」と言えます。皆さんも「こんなモノやサービスがあったら便利なのに」と思うことはないでしょうか。現実において提供されていないモノやサービスへの渇望、それが理想(=ニーズ)です。

通常、企業のビジネス活動においては、ニーズがたくさんあれば(それを求めるお客さんが多ければ)、ニーズを叶えるモノやサービスが自然と提供されます。しかし、中には、行政等の手が十分に行き届かず、モノやサービスが円滑に提供されないことがあります。高齢者の介護、子育て支援や障害者支援等、いわゆる「社会的課題」と言われる分野です。「社会的課題」は、一般的に「社会性」と「事業性」を両立させることが難しいと言われる分野ですが、ソーシャルビジネスとは、こうした社会的課題を、ビジネスの手法で解決するものです。ボランティアではなく、創意工夫(=革新性)により採算性を確保しながら、持続的にビジネス活動をすることが重要なポイントです。

ソーシャルビジネスにおいて、ビジネスアイデアを発想する際、考えておくべき視点は3つあります。「やりたいこと」「できること」「地域・社会のニーズ」です。「やりたいこと」とは、解決したいミッションがあるのか、熱い想いを持つことができる分野なのかという視点です。そして、「できること」とは、実現性が見込める分野なのかという視点です。最後に、「地域・社会のニーズ」とは、「やりたいこと」や「できること」が、本当に地域や社会が渇望していることなのかという視点です。この3つの視点が重なる部分がビジネスの種(アイデア)となります(下記の図を参照)。特に、事例でも紹介したように、「やりたいこと」=「熱い想いを持てる分野」なのかということが、ソーシャルビジネスでは特に重要となります。熱い想いで、共感を呼び、周囲の人々をビジネスへ巻き込んでいくことが成功のカギとなるのです。

まず、身の回りにどのような地域・社会のニーズがあるのかを確認してみましょう。きっと気付かないたくさんのニーズが見つかるはずです。それが、新しいビジネスの種となる可能性があります。
JFCコラム第6回画像

第5回「NPO事例紹介」

地域の社会的課題のひとつに、不登校や待機児童、放課後児童などの「子育て」があります。核家族化や少子化などにより、子供同士のコミュニケーション力が大きく低下しています。今回は、そんな子供達をサポートし、健全な成長を支える活動に取り組む法人を紹介します。

「子供達の笑顔を見ると、この仕事をやっていて良かったと心の底から実感します」。
そう笑顔で答えるのは、子育て支援に取り組む代表のY氏。60歳を機に会社を退職し、生まれ育った地元に帰省しました。そして、数年前に、地域のために何か役に立ちたいとの想いから、想いに賛同してくれた同世代の数人と子供向けの自然体験支援事業を始めました。

主な事業は、ゲーム遊び中心で外で遊ばなくなった子供達に、川遊びや焚き火など、自然を活かした日帰りや宿泊型のキャンプを通じて、コミュニケーション力や自然と向き合う力を高めてもらうものです。今では人気イベントとして定着し、遠方からも多くの参加者を集めています。

ただ、これまでの道のりは山あり谷ありで決して一本調子ではありませんでした。

当初は熱い想いを持った創設メンバーに恵まれ、行政からの補助金も得たことで、きめ細やかなサービスと低料金で事業を始めることができました。それが評判となり、事業は順調に推移しました。

ところが、転機が訪れます。病気や親の介護など、家庭の事情で想いに賛同してくれた創設メンバーが1人、2人と運営から抜けていきます。人手を創設メンバーに依存していたため、手が回らなくなり、やむなくスタッフを雇用することにしましたが、人件費の負担が経営に重くのしかかります。また、時を同じくして行政からの補助金も減額となり、非常に苦しい経営状況となりました。Y氏は振り返ります。「創設メンバーのボランティアと行政の補助金のおかげで運営ができていました。これがなくなれば途端に立ち行かなくなりました。事業計画に甘さがあったのです」。

赤字が数カ月続き、事業継続の断念も検討していたY氏のもとに、ある日1本の電話がかかってきました。「今年のキャンプはいつですか?今年も楽しみにしています!」。電話は、昨年参加した小学生からでした。Y氏が、この活動が子供達の役に立っていると実感した瞬間です。

それからY氏による事業改革が始まります。まず、収入を安定的に確保するための事業計画の練り直しに着手しました。安定的に収入を確保しなければ、スタッフの給与など、事業が継続できないからです。そのためには、特定の人や補助金への依存度を減らし、多くの人からの賛同と資金調達の多様化を図ることが求められます。多くの人から賛同を得て、協力してもらうために、情報を積極的に公開し、ビジョンや想いを外に向けて発信していきました。また、資金調達についても、1つの調達方法に偏らず、補助金や寄付金、借入金など、それぞれの特徴を踏まえて、効果的に活用することを心がけました。

すぐに事業が安定化したわけではありません。試行錯誤を繰り返した結果、徐々にY氏の想いが多くの支援者に浸透し、収入が安定してきました。想いが先行しがちなソーシャルビジネスですが、夢や理想だけでなく、寄付者、借入先の金融機関、利用する子供達など、それぞれのステークホルダーの立場になって客観的、論理的に説明を行ったことが良かったのです。

社会的課題を解決するためには、想いを持ち続けつつ、事業を継続していくことが求められます。そのためには、想い(社会性)とそれを続けていけるだけの収入(事業性)のバランスを上手く取ることが欠かせないのです。

第4回「事業計画(ビジネスプラン)の重要性とネットワークの活用」

日本政策金融公庫(略称:日本公庫)がお届けしている連載コラム第4回は「事業計画(ビジネスプラン)の重要性とネットワークの活用」についてお話いたします。
ソーシャルビジネスにおいて事業計画とは、ミッションをいかに実現していくかを説明する資料になります。具体的には、どのようなミッションのもと、どのような地域社会の課題に対し、どのような手法で解決に取り組むかに関するビジネスモデルを示す資料となるものです(図のとおり。)。

事業計画は、代表者の経歴、事業内容、商品・サービスの特徴、事業環境、事業の競争力など、数値化できない「定性」的な要素と、事業損益や財務状況など、数値で表される「定量」的な要素から構成されます。
内外の関係者の理解・支援を得るためや自身の事業内容を整理・確認するために活用されています。
特に、補助金の申請や金融機関への融資申込等を検討するにあたっては、定性・定量の両要素から計画を策定することで、資金の必要性、金額の妥当性、返済の可能性等について、明確で説得力を持った説明を行うことが可能となります。

とはいえ、初めて補助金や融資を申し込む場合など、事業計画の策定方法が分からないということもあろうかと思います。
このような場合、ソーシャルビジネスを支援するネットワークを活用してみてはいかがでしょうか。

例えば、日本公庫では、行政、金融機関、税理士・司法書士・行政書士などの専門家、商工会・商工会議所、中間支援組織などの支援機関と連携して、「ソーシャルビジネス支援ネットワーク」を全国で構築しています。
同ネットワークは、支援機関相互の施策・サービスをワンストップで提供するとともに、経営支援セミナーや個別相談等を行うことで、法人設立、事業計画の策定、資金調達、人材確保といったソーシャルビジネス事業者が抱える経営課題の解決を支援しています。

西宮市にも、西宮商工会議所、NPO法人コミュニティ事業支援ネット及び日本政策金融公庫が連携した「西宮ソーシャルビジネス支援ネットワーク」があります。経営相談や事業計画の策定方法等、事業者の経営課題の解決を支援しています。ソーシャルビジネスを成功させるため、身近な支援機関をぜひご活用ください。

【図】「ソーシャルビジネスにおける事業計画の位置づけ」
公庫コラム画像

第3回「熱い想いと冷静な事業計画が事業を飛躍させる~ソーシャルビジネス(SB)の創業事例~」

「この2年間、苦労の連続でした」と語るのは、福岡県中部でデイサービス(通所介護)を営むA氏。

この地域は、かつては筑豊炭田とも呼ばれ、石炭の採掘が盛んに行われていました。

近年、65歳以上の高齢化率が上昇の一途を辿っており、
今後、介護負担の増加や労働力不足等の社会問題が深刻化する懸念が出ています。

A氏は「地域の高齢者にもっと豊かな生活を提供したい」との強い想いで、今から2年前、勤務時代に貯めた自己資金と借入でデイサービスを創業しました。

デイサービスとは、利用者が日帰りで施設に通い、入浴や食事などの介護や機能訓練等を受けるサービスです。施設を利用する人は、他の利用者と接することで引きこもりや孤立を防ぐことができます。

また、介護をする家族にとっても負担の軽減につながります。
加えて、デイサービスは、地域医療と介護をつなぐ地域連携拠点としての重要な役割も担っています。

平成24年度からは経管栄養(口からの摂取が難しい利用者に対して、体外から消化管内に通したチューブで流動食を投与する処置)等の医療的ケアニーズも増える等、サービスを提供する事業者に求められる役割も高まっています。

一方、経営は決して楽ではありません。

日本政策金融公庫総合研究所が平成28年度に発表した調査では、デイサービスを営む約1,900の事業者のうち、「経営が赤字である」との回答は約4割でした。

特に従業員規模が9人以下の比較的小規模な事業者においては、5割を超える事業者が赤字となっています。

「地域の高齢者にもっと豊かな生活を提供したいとの想いが先行し、経営者としての冷静な視点が足りませんでした」と語るA氏。

空き家となっていた古民家を買い取って、大規模な改修を行うとともに、送迎車2台、スタッフ5人を揃えるなど、万全の態勢で臨んだ創業でした。

しかし、現実は、事業所の知名度もなく、利用者は毎日2~3人にとどまり、準備した運転資金がみるみる減っていくなど想定外の連続でした。

なんとか反転させようとスタッフをリストラするなど必死に経費削減に努めましたが、かえってスタッフとの信頼関係を損ない、離職者が後を絶ちませんでした。

打つ手がことごとく裏目に出て、肝心のサービスの質を低下させる悪循環に陥りました。A氏は振り返ります。

「熱い想いが先行し、冷静な目で事業(収支)計画を作らなかったことが失敗の原因でした」。

その後、A氏は、事業計画をもう一度練り直します。

まず着手したことは、スタッフ教育の充実です。スタッフとの信頼回復に努め、ひとりひとりの利用者に丁寧な接客を心掛けました。

手ごたえを感じたのは創業して1年が過ぎた頃です。口コミで事業所の評判を聞いた利用者が1人、2人と増え始めたのです。

「利用している●●さんからスタッフの応対が良いと聞いた」

「地域のケアマネージャーから、とても良い事業所があると薦められた」など、良い評判が少しずつ広まるようになったのです。

口コミがさらなる利用者を呼び、徐々に利用者が増えていきました。こうして、創業して2年が経つ頃には経営も軌道に乗りました。
今回の事例は、ソーシャルビジネスを行ううえで重要なことを示唆しています。熱い想いと、冷静に事業を見つめることのどちらか一方だけでは上手くいきません。「熱い想い」と「冷静(客観的)な目」の両立が事業の飛躍には欠かせないということです。

第2回(2017年7月更新)「移動スーパーが安心を運ぶ~ソーシャルビジネス(SB)の創業事例~」

「家にいても熱中症になるんですよ。しっかり水分摂ってくださいね!」「こんな暑いときは畑に出ないほうがよいですよ!」・・・

京都府北部の丹後地域で移動スーパーを開業した女性がお年寄りと交わす会話です。日本三景の一つ、天橋立周辺の宮津市や舟屋で有名な伊根町を、3コースに分けて週2回ずつ、大音量の音楽を流しながら冷蔵設備のついた専用の軽自動車で巡回しています。

それまで事務職のパートをしていた女性が、2人の子どもに手がかからなくなったこともあり、一念発起して移動スーパーを始めたのは2年あまり前。京都府北部を拠点とするスーパーの販売パートナーとして契約、移動スーパーのハンドルを握ります。雨の日も雪の日も、契約するスーパーで惣菜やお弁当、野菜、果物、お菓子、日用品などを積み込むが朝の日課です。

今では地域のお年寄りにとって欠かせないインフラとなっています。

近年「買い物難民」という言葉を耳にします。地域で暮らすお年寄りには自動車の運転をしない(できない)人が少なくありません。「平成29年版高齢社会白書」(内閣府)によると、高齢者の日常の買い物の方法を尋ねたところ、4人に3人が「自分でお店に買いに行く」と回答、主な手段は「自分で自動車を運転」と回答しています。

しかし年齢別にみると、75歳以上の女性では、その割合が大幅に低下しています。そこに「買い物難民」という社会問題が存在します。

そうした社会問題を、ビジネスの手法を用いて解決に取り組むことを目的とした事業活動がソーシャルビジネス(SB)であり、持続的な取り組みでなければなりません。移動スーパーの良いところは、実際に商品を手に取って購入できる点です。

そこには、売り手と買い手の間にコミュニケーションがあります。通信販売やインターネットにはない強みといえるでしょう。
「○○ある?」「次は○○持ってきてくれる?」というお客様の細かなニーズにも対応できます。

販売パートナーは個人事業主です。スーパーから商品を預かり、売れ残りはスーパーに返品する「委託販売」の形態をとっており、たくさんの商品を積み込むことができるわけです。収入は売上の17%。それに1商品につき10円だけお客さまに負担してもらい、スーパーと販売パートナーに分配されます。この収入から、車両にかかるガソリン代などの経費をまかない、残りが利益となります。

また、今回の事例では、見守り活動も業務の一環となっており、気になったことがあれば、地域の包括支援センターのケアマネージャーさんに連絡したり、連絡先を聞いている家族に伝えたりすることもあるそうです。

週2回の巡回でお客様に会うと、顔色や健康状態などの変化まで分かるそうです。冒頭の女性の言葉は、地域のお年寄りにとって、また家族にとって、何よりも安心につながっているのです。

第1回(2017年5月更新)「ソーシャルビジネスって何?」

私たちが暮らす社会には、高齢者や障害者の介護・福祉、子育て支援、まちづくり、環境保護、地域活性化など、多様な社会課題が存在しています。こうした課題の解決を使命(ミッション)として、ビジネスの手法を用いて解決するのがソーシャルビジネス(SB)です。

つまり、社会性と事業性を満たす必要があります。

SBの代表的な担い手としてNPO法人があげられますが、株式会社等の営利企業や個人でもSBに取り組むところは少なくありません。

日本政策金融公庫総合研究所が2014年に行った調査では、NPO法人の75.1%、株式会社等の6.1%がSBに取り組んでいます。
社会貢献活動を目的とするNPO法人はともかく、営利企業や個人がSBに取り組むのはなぜでしょうか。

それは、ビジネスとして成立するだけのニーズがあるからです。

たとえば、「買い物難民」という言葉があります。最近では、過疎地域だけでなく市街地においても住民の高齢化等に伴い、
日常の買い物が困難になっている方がいます。ある食品スーパーでは、「買い物難民」の解消を目的に移動スーパーを運行し、
高齢者に喜ばれています。

また、アフリカやアジアの開発途上国の製品を公正な価格で輸入し、先進国市場で販売するフェアトレード(Fair Trade)という手法があります。フェアトレードの製品を扱うことにより、過酷な生活環境にいる生産者の生活水準の向上、貧困問題の解決を目指している事業者もいます。

このように、SBとは、今まさに解決が求められている社会課題に取り組むことを目的とした事業活動です。一部の企業やNPO法人だけが担う特別なものではありません。

SBの本質が、社会の変革を望む担い手の志であるのであれば、すべての方に踏み出すチャンスがあるはずです。

本コラムでは、SBの担い手の方、SBへの取り組みを考えている方にとって、一歩踏み出すためのヒントとなるような情報を連載していきます。